古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

クリスピン・グローヴァーさんを呼んで下さい!!

 カナザワ映画祭に行ってきました。前の日にあんまり興奮しすぎて一睡もしないで運転で出かけ、コンディションの調整に大失敗してしまい、もう行く途中で帰って寝たいような気分になってしまいながら、なんとか金沢に着きました。会場の21世紀美術館は兼六園という大観光名所の真横にあるため、駐車場が満車だらけで、ちょっと遠くにとめたらそこが、えらいお金の掛かる駐車場で、その後移動させたらそっちも安くないところで、トータル3300円も駐車料金に費やしてしまいました。ちょっと路地に入れば24時間で1400円なんてところいくらでもあったんですよ。

 金沢の街並みはえらくきれいでしかも活気があって、道行く若い人たちが全員小奇麗で美男美女ばかり! 城下町だったから殿様に不細工な人々は全員殺されてしまったのかもしれないですね。新潟は日本海側最大の都市だとか美人が多いとか、調子に乗っていたら全く大間違いだった事がはっきりしました。新潟の繁華街なんてほとんどの商店が閉まっていて栄えているのはイオンだけですもんね。一緒に行った友達が、道州制が始まったら州都は金沢だと断言してました。これはまずいぞ。

 映画祭ですが、特にあんまり興味もなく、せっかくだからというような感じで申し込んでいた『クリスピン・グローヴァーのビッグ・スライドショウ』ですが、チケットも3500円もするし高いな〜なんて得体も知れないし、話のネタくらいになったらいいかなくらいに思っていました。もったいないけど眠くなったら寝ちゃえばいいやと思っていました。ところが!この日みた『It is Fine! Everything is Fine.』という作品がとんでもない大傑作だったんですよ!!

 クリスピン・グローヴァーさんは『バックトゥザフューチャー』の冴えない父親の役や『ワイルドアットハート』の女の子の回想シーンで登場する従兄弟の役だそうです。役を思い出そうとしても顔がはっきり思い出せないですもんね。そんな彼が制作した映画が映画祭では2本上映されました。オレはてっきり、2日間2本ずつ上映するものだと思っていたら、一日ずつ別の映画でした。オレが見たのは2日目の『It is Fine! Everything is Fine.』という作品です。

 『It is Fine! Everything is Fine.』は脳性まひの中年男性がセックスと殺人に明け暮れるというとんでもない映画でした。そんな単純な言葉で割り切っていい作品ではないというのもまた事実で、単なる際物では全くありません。主役のスティーブン・C・スチュワートさんがシナリオもお描きになって、撮影が終わった途端1ヵ月後に亡くなってしまうという、文字通り命がけで作られた映画です。一人の身障の男が人生の全てを賭けて、魂を焦がして作られた凄まじい狂気に満ち満ちた圧倒的な作品でした。

 オレも、この通りがさつで雑な精神の人間ですが、心が鋼鉄でできてるわけではなく、時には傷つく事もあるんですよ。同情してもらいたいわけではないので、明るく振舞ってますがちょっと泣いちゃう事もあります。この『It is Fine! Everything is Fine.』はそんな傷にじゅんじゅん沁みてくるわけです。セックスや殺人なんて飛んでもない背徳的な場面ばかりが描かれていますが、大変な痛みを経験して理解した人の慈愛のようなものが溢れている映画でした。

 スティーブンさんが捨て身で主役を演じていたら、脇の女優達がまた素晴らしい捨て身ぶりで、捨て身かどうかは分からないですが、脱ぎっぷり、やりっぷりが凄まじく、大変な覚悟を感じました。そういった事も含めて情けも容赦もなくエンターテイメントとしても圧倒的に面白いです。

 上映が終わって、あまりの作品に打ちひしがれていたら、見たお客さんが若い男ですが、「結末があんなじゃなかったらもっとよかった」なんて事を仰っているので、渾身の中段づきをわき腹に打ち込んでやろうと思いました。もちろん思っただけですが! ここまで圧倒的な映画を見て文句が出るとは、一体なんなら満足するのか言ってみろこの野郎と思い、殺意のこもった目で睨んでやりました。目が合う前にそらしました。

 こんな素晴らしい映画が21世紀美術館のシアター21と言う会場でわずか百数十人程度の人しか見れていないんですよ。こんな事でいいのでしょうか!! ぜひとも多くの人にみてもらいたく、また初日に上映した『What is it?』はオレも見てないですから、また上映してほしいのですが、クリスピン・グローヴァーさんは自分が立ち会わないと上映をしないという難儀な方針を打ち出しています。なのでDVD化はおろか、ロードショー公開もないんですよ。しかもクリスピン・グローヴァーさんがその場でパフォーマンスをするスライドショーと映画の後の質疑応答も毎回必ず一緒だそうです。だから、どうにか何か映画祭か何かでまたクリスピン・グローヴァーさんをお呼びいただくしかないんですよね。時間とお金と英語力があれば、調べて外国の上映に出かける事もできますが、オレは字幕がないとやっぱり厳しいですもんね。やっぱり日本に来ていただくのが一番なんですよ。でも、この映画は『IT』シリーズ3部作だそうで、今はまだ2本しかないので、もう一本完成したら改めて来ていただくのもいいかもしれないです。つくづく『What is it?』を見逃したオレはなんて愚かなのだと大後悔の真っ最中ですよ。死にたい、でも死んだら見れない!!生きよう!!!

 クリスピン・グローヴァーさんは是非東京でも上映したいとおっしゃっておりました。ぜひ中野サンプラザあたりの大き目の会場で何日か公演していただけたらすごくいいと思います。チケット争奪戦みたいになってしまうとオレが見れないですもんね。

 カナザワ映画祭では他にもいろいろ見たのですが、そっちは改めて後ほど。