古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

石原まこちんさんの『GENGO』を読んだ

 ずっとSPA!での連載を飛び飛びで読んでいた石原まこちんさんの『GENGO』の1巻がようやく発売になりました。これで点と点が線でつながります! すごく面白いのですがあまりに身につまされて冷静でいられません!

 タイトルにもなっているお父さんのゲンゴさんがなかなか登場せず、やっと出た!と思ったらどことなくオレの父に似ているので魂消ました。オレの父親もゲンゴさんのようにとても威圧感があってオレは常に震え上がっておりました。うちは自宅で商売しているので毎日常に父が家でゴロゴロしているので、その点はゲンゴさんの方が出勤してくれるので恵まれていると思いました。はっきり言ってうらやましい。それにご兄弟がいるじゃないですか、オレは一人っ子なので父の監視がオレに集中するから余計つらいと思いました。

 なにしろチャンネル権は完全に父が握っていて、7時からNHKのニュース、夏場は野球で完全に固定されていました。ドリフはバカになるからと禁止でした。とてもつまらなかったです。

 しかし思い返すと、父は大変子供が好きで、親戚や近所の子供と一緒に楽しそうに遊んでいて、オレは「本当は怖いくせに、嘘つきだな」と思っていました。でもそれはオレの勘違いというか、怖がりなせいで、オレにも同じく一緒に遊んでくれていたような気がします。ただオレが怖い父を常に払拭できず、楽しくできなかっただけだと思います。怒ったときの父の恐ろしさが凄まじかったせいです。

 石原まこちんさんは、高校を出ると就職されてすぐ辞めてニート生活に入ります。オレは高校を出たら、すぐに家を出たり自立したかったので、警察官になるつもりでした。当時はバブル期で公務員なんて全く人気がなかったですからね、剣道の二段もあるし学級委員だったから簡単に採用されると思っていました。同じ剣道部のサダは警察官になってました。オレの行っていたバカ高校からでもそんなに難しくなかったはずです。

 ところが、父親がある日オレに「頼むから大学くらい行ってくれ」と頭を下げるのです。父親がオレになんか頼むなんて!ととてもビビリました。そうしてバカ高校だったので、一年浪人して、「行ってやってる」くらいのつもりで東京に進学しました。今から思うとなんという恩知らずぶりかと呆れます。

 そうしてアートにかぶれて、マンガを描くようになって現在に至ります。そのまま警察官になっていたらと考えると、多分5年くらいで嫌になってやめて実家の商売を継いでいたのではないでしょうか。そしたら父親とももうちょっと長く商売ができたかなと思います。父は10年前に、オレが実家に戻った途端半年で死んでしまったのです。高校くらいまでは本当に嫌で嫌で死ねばいいと思っていた父が、本当に死んでしまったらあまりの寂しさにこっちが死にそうでした。感情は事態に実際直面してみないとどんな風なのかさっぱり分からないものだと本当に驚きました。

 まこちんさんは、このマンガを描くようになるには、きっとゲンゴさんといろいろな気持ちのわだかまりが解消されたのではないでしょうか。鬱々とした日々を描きながらも脱力感たっぷりで、全然暗くないのはきっとそういうことじゃないかと思いました。今はゲンゴさんと仲良しなんじゃないでしょうか。こんなこと描くと商売の邪魔ですかね。