古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

溝口健二とSUNN O)))

 日曜日は万代シネウィンドで溝口健二映画祭『雨月物語』と新潟大学の先生の溝口映画についての講義、万代のLOTSでSUNN O))) & Boris JAPAN TOUR 2007を見ました。万代から移動せずに豊かな文化に触れることができる一日でした。

 世界に名を馳せた溝口健二監督の代表作『雨月物語』は1953年の製作で同年には小津監督が『東京物語』を製作しています。白黒映画で、オレは小津監督のまったりした映画が大の苦手なので、正直なところ面倒だなという気持ち半分で見に行きました。古い映画はテンポが悪いようなイメージがあります。ところがどっこい、『雨月物語』はストーリーがころころ転がって全然退屈しませんでした。退屈しないどころか面白かったです。

 怪談なのですが、戦国時代の百姓の美術が素晴らしく、すごい生活感でした。ドロドロで土ぼこりがまっている感じがリアルに幽霊が出てもまったくおかしくない感じでした。以前陶芸にも興味があった時、ロクロをまわしたりしたのですが、現在では電動なのが、当時は奥さんの人力による回転で、夫婦や家族の絆が産まれる表現としても素晴らしかったです。

 新潟大学石田美紀先生の講義は、女性視点による溝口映画ということでした。他の映画も見たくなりました。

 新潟LOTSでのSUNN O))) & Boris JAPAN TOUR 2007は危険なオーラを発散させているお客さんもちらほらいて怖かったですが、大体は音楽ヲタみたいな人で居心地がよかったです。

 新発田が世界に誇る福島さんの音楽ユニットmimiz、Boris、朝生愛さん、そしてSUNN O)))の順番でした。オレはでかい音をずっと聞いているのが苦手でしかも飽きっぽいので、ずっと会場とロビーを出たり入ったりしてました。アンチミュージックの皆さんが受付をしていたので話し相手になってもらえてよかったです。

 全体的に会場は暗く、ずっと暗いままで、スモークはずっと炊きっぱなしで、異空間のようでした。会場をうろつくと急にスモークの間から人が現れるのでびっくりします。眼球が揺れるとか内臓がかゆくなると評判のSUNN O)))ですが、噂にたがわずすごかったです。眼球がゆれるかと思ってメガネを外してみたところ、眼球は揺れませんでしたが、手にしたメガネがビリビリしてました。メガネだけじゃなくてステージに向いている体の表面はずっとビリビリしてました。電子レンジに暖められているとこんな感じかもしれません。金玉袋の精子がみんな死んでしまうのではないかと思いました。すごい音量だと思うのですが、耳には不思議と優しく、うるさくは感じなかったです。こんなでかい音を聴いたのは大昔吉祥寺で裸のラリーズを見たとき以来だったかもしれません。圧倒的なものに触れ、本来触れてはいけないものに触れてしまったような気もしました。SUNN O)))の皆さんはずっとこんな演奏を続けていたらガンにならないか心配です。

 SUNN O)))は曲は全部つながっていて1時間以上のライブで1曲だったのかな。出たり入ったりながら聴いたところ、途中からドラが入ったり、お経のような歌が始まったりしてました。体感する音楽でした。

 溝口健二、もうとっくに死んでしまった世界的な日本の名監督。お客さんはおじいちゃんおばあちゃんが多かった。SUNN O)))はアメリカのアングラの中でも相当な際物バンド。同日に万代でイベントがあったこと以外共通点がない。強いて言えば、世界的な芸術である事と、社会の中核を担うようなお客さんがあまりいなかった事くらいでしょうか。オレは本当に社会の中心からどれだけ離れているのだろう。オレのイメージする社会の中核は企業で働いたり、商工会議所でいろいろな商店にアドバイスしたり、農業に従事したり自動車を販売したり商店を営んだりすることで、オレはそういう人を思うと申し訳なくて泣きそうになる。それでもオレもそこそこの税金は払えるようになれてよかったです。マンガを描くと称しては好きに寝て起きる生活で、いつまで続ける事ができるのか不安で仕方がないですが、おかしな振り幅の一日でした。