古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

東京で『母なる証明』を見た

 『グエムル』『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督の新作で、今年の映画ベストテンを考える上での最重要作であることは間違いない『母なる証明』が公開されています。ところが、新潟での上映は1月とのことで、東京は新宿、あのバルト9で見ました。

 映画館そのものはTジョイ系なので、別に新潟にもあるけどね駐車が不便だからあんまり行かないけど、と別に臆するところはなかったのですが、これが東京かと違いを感じるところがありました。

・レイトショー料金がない
・隣に見知らぬ人が座っている
・駅から遠い

 そんなの普通だよと言われるとその通りなのでしょう。新潟ではレイト1200円が当たり前で、他にもメンズデー、二人デーなどでの千円が常識だったので1800円で見るのは心をえぐられるような感覚がありました。実際は600円、二人分で1200円えぐられただけですが。たけえよ。でもシネマチネという制度があってどれか時間が1200円でした。それに合わせるしかない。でも新潟のTジョイはレイトとシネマチネが両方ある!

 新潟ではたいていオレが見る映画は10人前後なので、隣に見知らぬおじさんが座っているなんて考えられない状況で、別に気にする必要ないのですが、肘掛に肘を掛けていいのか遠慮しました。

 新宿駅から地下道を通って世界堂の隣じゃないですか。新潟では車で屋上の駐車場にとめて、そこからちょっと降りると映画館というのが普通なので時間も体力も必要なことに改めて気付かされました。

 東京で映画を見る人は頑張っている!かつてオレもそんな青年だったのですが、思い出させられました。前売り券を探して買ったりと涙ぐましい節約をしていました。今オレはユナイテッドのポイントが30くらい貯まっております。つまり5本タダで見れるのです!

 そんな思いを抱きながら見た『母なる証明』は、こころにずっしりと重石を載せるような、強烈な作品でした。この映画はサスペンスで、ネタバレしてしまうと面白さに支障を来す要素がたっぷりなので、これから見るのを楽しみにしていらっしゃる皆さんは絶対に、ここからさき絶対に読まないでください!!!

 大丈夫ですか? ここからネタバレですよ。

 殺人事件の容疑者にされた精薄の息子の容疑を晴らすために証拠を探し、息子の無実を証明するとそんな結末に感動すると思っていたらまったくそうではなく、とんでもない結末に感動しようと思っていた心の持って行き場所が見当たらず、当惑したというのが最初の印象でした。映画はとてもよかったです。登場人物が素晴らしくリアルで、お芝居も素晴らしかったです。首をかしげるようなシナリオでもまったくなかったです。監督の意図が伝わり、モチーフが見事に機能する形で表現されていたと思います。

 息子の友達の不良が、軍歴がありイケメン風に描かれていましたが、実際そういう人物がいるとしたらもっとケチなしょぼい感じだろうとは想像します。なにしろ、友達や彼女など、つるんでいる連中が知恵遅れみたいな人ばかりで、多分下級生にしか友達がいないみたいなタイプですよ。彼が犯罪科学捜査の本を読んでいて、もっともらしいヒントを母に与えるという伏線は素晴らしいです。

 結局のところ、息子が犯人で、母は余計な捜査をしてしまったばかりに、息子の心の引き出しから黒い記憶を取り出してしまい、息子の犯罪の証人を殺してしまい、息子の友達には大金を取られてしまい、残念なことしかもたらされません。それでも、何があろうとも母は母であり息子を守りたい気持ちに一点の曇りもないことが描かれていました。

 あんまりなバッドエンドに混乱してしまうばかりで、今年の韓国映画はシンプルにカタルシスを与えてくれた『チェイサー』の方がよかったかなとオレは考えてしまい、己の度量の狭さにまた気付かされました。この映画のヤフーのレビューを見ていたら「愛は愛だけど、正しい愛ではない」みたいな感想を見つけて、イラッとしました。いいも悪いも関係なく狂っちゃうのが愛だろバーカ!